ノルウェー語講師・青木順子さんのエッセイ > 2010
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クリスマスにまつわるエトセトラ

ノルウェー語でクリスマスはjul(ユール)と言います。

このjulという単語には、それ自身に不思議な力があるように感じます。みんなが自然と微笑みを浮かべる力。小さい頃のクリスマスの思い出に浸ったり、ふんだんに出てくるクリスマスのご馳走を連想したり、どんなプレゼントを用意しようかとそわそわしたり、そして何よりもなかなか会えない家族や親せきとの集い・・・。ノルウェーの冬は暗く厳しいですが、クリスマスのデコレーションや窓辺のアドベントキャンドルは人々の心を温かく照らしてくれます。

しかし、近年、クリスマスの商業化がひどくなったと嘆くノルウェー人は多いです。極端なところでは10月からクリスマスのデコレーションやライトアップを始めるお店もあるようです。確かにクリスマスでお金を儲けようという商魂がそこにはあるでしょう。でも、人々が明るい光を求める根源的な心が、そうした動きに呼応しているのでは?と思うこともあります。

特に私のお気に入りは、クリスマス前から家々の窓に飾られるアドベントキャンドルやクリスマスの星をかたどったライティングです。

一番最初に留学した先は、のんびりとした田舎で派手なイルミネーションとは無縁なところでした。

クリスマスに近づくとどんどん日が短くなり、15時頃の帰宅でも外はもう真っ暗。でも、家々の窓からもれる光がとてもハートウォーミングで、何だか懐かしい気持ちになりました。日本とは違ってカーテンは基本的に閉めないので、窓辺のデコレーションを楽しむことができたのです。ぽつ、ぽつ、ぽつ、と暖かい光が真っ暗な夜に映えて、商業的なデコレーションとは違う素朴な味わいを私は何よりも楽しんでいました。

あとjulのマジックはいろいろな「言いわけ」を作ってくれることです。

julだから、ご馳走とたくさんのお酒でもてなされる席を、会社がセッティングしてくれるjulebord(ユーレブール)は、日本でいうところの忘年会。この時とばかりに華やかに着飾って、滅多に仕事の後のお付き合いはしない職場の同僚たちと、ダンスをしたり、羽目を外して騒いだり。それもこれもjulという大義名分があるから、許されます。

またjulだから、ダイエットに夢中な人でもヘヴィーな料理を食べることがOKです。伝統的なクリスマス料理は豚のリブ、マトン料理、タラなど。それに山盛りのソーセージや付け合わせが大皿に盛られて、見ているだけでもお腹いっぱい。それにたくさんのデザート!

お酒だって負けてはいられません。アルコール度数の高いアクアビット(じゃがいもの蒸留酒)は、胃のためにいいからという理由で好んで飲まれます。それに特別なjuleøl(ユーレウル)というクリスマスビールが販売され、どんどん飲みたくなるのもご愛敬。お酒に強い多くのノルウェー人にとって、julという立派な言いわけのもとに、杯を重ねます。

そして最も大切なことは、julには仕事を休んでいいという言いわけです。大切な家族との集いを妨害することは、ほとんど人道問題に関わること。これを私たち日本人も忘れてはいけませんね。

少し早いですが、God jul!(グーユール=メリークリスマス)

クリスマス

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