ノルウェー語講師・青木順子さんのエッセイ > 未分類
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失われた太陽をもとめて

現代のノルウェー人は、それほどキリスト教を熱心に信仰しているようには見えません。
ですが、別のものを熱狂的に崇めているような気がします。そのものとは?
はい、「太陽」です。もはや「太陽教」の域に入っていると思います。

芝生で日焼け

私の目元にシミがあるのは、ノルウェーに何度も行ってノルウェー人と行動を共にした結果です。
最初に留学した時は、8月でした。まだ残夏といった気候でしたが、なぜかノルウェー人は
外で本を読んだり、おしゃべりをしたがるのです。ちゃんと調査をしたことがないので
分からないのですが、かの地は日本より紫外線が強い気がします。長時間、外にいると
ジリジリと肌に日光が侵入してきます。でもノルウェー人は日焼け止めをきめ細かく塗り直す
こともなく、肌を日光のもとにさらします。その結果、あの人たちのとんでもなく白い肌は・・・・
はい、赤くなります。もっともっと焼いて小麦色の肌になんとかしようと必死のようですが、
なかなか簡単にはいきません。「ブロンドの髪に、茶色い肌が理想なの」とノルウェー人の
女の子が言っていました。「美白」信仰の日本人には、この時点でついていけません。

海辺では当然・・・

ノルウェー語では、わざわざ「外で飲むビール」という意味の単語utepils(ウーテピルス)
があるくらい、彼らは太陽のもとでビールを飲めることにも命をかけています。
日本人には肌寒いくらいの気候でも、ノルウェー人は半そでorノースリーブといった
気合の入った服装で、オープンテラスでアルコール摂取にいそしみます。
それに付き合わされる時には、ストールまたはショールといった防寒態勢が必要で、
唇がチアノーゼくらいになります。「もう中に入ろうよ!」と何度、叫びたかったことか・・・。
はい、でも今では全てが良い思い出です。

ひたすら日焼け

ただ留学して分かったことがあります。ノルウェーの冬は、日照時間がとても短く、
暗い時間が長く続くという事実。冬至を過ぎて、少しずつ日が長くなっていくありがたさ。
まだ若かった私でも「ありがたいものよのぅ」とすっかりご隠居気分になったことを覚えています。
ですから3月~4月のイースターには、みんなの「太陽をもとめる心」がスパークします。
ある者は山スキーにいって、またある者はもっとダイレクトに南欧に足を延ばして、思う存分、
日焼けに興じます。そういえば4月に来日したノルウェー人の学生たちは、都内のファミレスの
外に座って、顔を太陽の方へ向けて日焼けに興じていました。ノルウェーでは「アクセプト」な
行為でも、日本ではしかも東京では、なかなか異様な光景で、ガイド役の私は焦りましたっけ。

太陽の下のスキーは最高

長い冬を経て、念願の夏がノルウェーにもやってきます。日本のような気温にはなりませんが、
太陽はたっぷり長時間出ます。極端じゃないの、ってくらい夜の遅くまで明るいです。

こんな忘れられないエピソードがあります。夏の日、とあるノルウェー人のお宅にお邪魔し、
バルコニーでワインを飲んでいた時。いつまでも沈まない太陽を見ながら、彼女は
「今から、これから来る冬のことを思うと憂鬱だわ」とつぶやきました。

なぜか「メメント・モリ」(死を想え)という言葉が浮かびました。たくさんあふれている生の中でも
死を忘れないように、太陽がたくさんある夏に冬を思い出すという行為が重なったのかもしれません。
そして私もゆっくりと、地平線に入ろうとする太陽を眺めながら、来るべき冬に思いを寄せました。

もしかしたら、私も少し「太陽教」の信者になりつつあるかもしれません。

オープンテラスが人気

ノルウェーに行くと、迷わずオープンテラスを選ぶようになりました。
ええ、シミは大きくなっていますが、それだけの代償はある気持ちの良さです。

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