ノルウェーの鬼才、ポール・シュレットアウネ監督来日!
今年で3年目を迎える「トーキョーノーザンライツフェスティバル」では、北欧映画の上映を行っています。私は、最初の年から観客として映画祭を楽しんできました。
今年は、映画祭ディレクターの笠原さんから「ノルウェーの映画監督来日が決まりました!」と興奮気味のメールを頂き、2日間通訳を務めることになったのです。
通訳の仕事はいつも、特別な緊張感があります。とんでもない方言を話す人だったら?心配して、監督のポール・シュレットアウネさんの経歴を調べるとオスロ出身とわかり一安心。ほ~。
また別の心配がありました。監督の作品、「隣人」や「チャイルドコール 呼声」は、観客を不安や恐怖に陥れる怖い映画。おまけに監督の顔をネットで観たら、神経質そうな怖い顔・・・。監督自身も「怖い人」だったらどうしよう?と怯えながら、通訳初日、ノルウェー大使館に向かいました。
でもそうした不安は監督と最初に挨拶した瞬間に吹っ飛びました。
ごく普通のノルウェー人のようにフレンドリーで名刺なんて持っていません。
その日は、DVD用のインタビューといろいろな媒体の取材が入っていました。
監督も私も驚いたのですが、インタビュアーの人たちの下調べがばっちりで、核心的な質問が次々と投げかけられます。
監督は時差ボケで最初は辛そうでしたが、「いい質問だね。でも答えるのが難しいなぁ」とつぶやき、2分くらい黙ってしまうこともありました。それだけ誠実に応対してくれた証です。
同じ質問が何度か出ましたが、監督はうんざりした様子を見せません。「やっぱりこれだけの人になると人格も素晴らしいのだなぁ」と、横で聞いていて感心しました。
ノルウェー人らしさも垣間見れました。インタビューが終わると、すぐに外に出ては「新鮮な空気」を吸う、を繰り返していて、微笑ましかったです。
朝から夕方18時近くまで大使館にこもって、いよいよ夕食タイム!
移動の途中、今日の感想を尋ねてみると、「ジャーナリストが素晴らしい。ノルウェーの取材よりもずっといいよ」と嬉しいことをおっしゃってくださいました。
さてお店は、西麻布の「権八」です!そう、タランティーノ監督の「キル・ビル」のセットに影響を与えたお店で有名ですよね。私自身、行きたかったお店なのでテンションUP!
ノルウェー人だから当然、アルコールを飲むんだろうなぁと思っていたら、「ガス入りの水でいい」とのリクエスト。あれ?と思っていたら、次はビールをオーダーし、それからはずっとワイン、ワイン、ワイン・・・。それにつれて監督の機嫌もどんどん良くなっていきます。
そうだ、ノルウェー人は体力があるから、じっくり時間をかけて着実に杯を重ねるスタイルだったと思い出します。これはまともに付き合えません!
映画祭のスタッフの方々は途中退席し、配給会社の村田さんと監督と楽しく会話が続きます。村田さんが北欧諸国の国民性の違いを監督に尋ねると、待ってました、とばかり愛情あるジョークを飛ばします。
スウェーデン人:真夜中、全く車が走っていない道路でも赤信号を守る国民。
デンマーク人:愉快な性格と思われているけど、案外、ケチ。
フィンランド人:全然、知らない。
意外なことに監督はアイスランド人を激賞します。一緒に仕事をしたことがあるそうですが、「ダメなものはダメ」とダイレクトに言ってくれるので、その率直さが大好きとのこと。
「それってノルウェー人と一緒では?」と内心、思いましたが、黙ってふむふむと拝聴しました。
さて肝心の映画、「チャイルドコール 呼声」(原題「Babycall」)について触れましょう。
日本でも公開された「ジャンクメール」(1997年)では、ブラックながらもユーモアある愛すべき映画でしたが、「隣人」(2005年)から、がらっと作風が変わってきます。より過激に、よりバイオレンスに、迷宮のような世界が展開していき、観客を幻惑します。
「チャイルドコール」の主演は、今ではハリウッドでも活躍するスウェーデンの女優ノオミ・ラパス。
彼女は自分の息子を必死に暴力的な元夫から守ろうと孤独な、そして時に偏執狂的に闘っていきます。
物語はしかし、数々のナゾが散りばめられています。そして、ラストシーンの衝撃。今まで私たちが目にした「現実」とは一体何だったの?と根底からくつがえされます。
監督は「観客は、何通りにも解釈できる」と言っていました。現実と夢の世界のゆらぎは、冒頭からラストまで緊迫感を保ったまま、スクリーンで繰り広げられます。
監督はジャンルを超えた映画を作る天才ですが、素顔はごく普通の優しいノルウェー人でした。
インタビューは一般公開前にいろいろ掲載されると思いますので、ぜひ注目してくださいね。もちろん、映画もご覧になってください!
「チャイルドコール 呼声」は、3/30より「ヒューマントラストシネマ渋谷」他、公開になります。
2013年2月15日10:02 AM
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